第二次世界大戦後、
世界中で多くのバルナックライカタイプのカメラが作られました。
特に、日本では多くのライカタイプのカメラが作られ、
「ライカに追い付き追い越せ」と頑張っていました。
ところが1954年にライカM3が発売になると、
せっかく追いつこうとしたバルナックライカが、
既に過去の古いタイプのカメラとなってしまいました。
そこで各社は、
とりあえず今のカメラを少しでもM3ぽくしようとしました。
ニコンS2が発売前に急遽、
巻き上げレバーと等倍ファインダーに改良したという話は有名です。
このタナックV3も、そんなカメラのひとつです。
(レンズはタナーが本当ですが、私のニッコールを付けています)
タナックは、田中光学が発売したカメラで、
最初はバルナックライカと同じデザインで発売されました。
ただ裏蓋が横に開き、ライカよりフィルムを入れるのが簡単でした。
1957年には、ニコンS2のようなタナックSDを発売しますが、
売れなかったのか、翌年にはこのV3を発売します。
しかし、やはり急いでモデルチェンジを繰り返していたので、
いたるところに設計の甘さが出てきてしまいました。
一番困るのは、巻き戻しクランクです。
クランクが180度開いてしまい、しかも下にしなるので、
巻き戻しの時に上カバーを擦って傷が付いてしまいます。
この個体は薄く付いているので画像では見えませんが、
殆どのV3には、擦り痕が付いてしまっています。
シャッターダイヤルの指標の位置も、少し変です。
ダイヤルの真横に指標が無いので、数字が少し下を向いてしまいます。
また、このカメラは独自のバヨネットマウントになっています。
ライカMそっくりなマウントなのですが、
結局バヨネットマウントのレンズは発売されませんでした。
そのため、メーカーはマウントアダプターを付けています。
これがないとレンズが付けられないので、
中古でボディーだけ購入しようとする際には注意しましょう。
今回の個体は、取り合えず動いてはいるのですが、
オーバーホールという事でお受けしました。
まず何よりシャッター幕が変です。
以前交換したようですが、これではまずいでしょう。
これではいつ金具から幕が外れてしまうか分からないので、
交換し直します。
分解しても、不思議なところがいろいろありました。
距離計の光路が、わざわざプリズムを入れてクランクしています。
ファインダーのプリズムが大き過ぎて、
反射面が手前に来てしまうからなのですが、
ファインダーを等倍にするために無理しているからでしょうか?
巻き上げレバーの下には大きな歯車があるのですが、
このギアは全く使われていません。
その代わり、
裏側に違うギアが付けられてスプロケットと連動しています。
何か上側では不都合があり、途中で設計変更したようです。
作りとしては、国産機としてはまずまずなのですが、
やはり部品の材質に疑問な場所があります。
シャッターブレーキやシャッタードラム止めの板が、
バネ鋼でなく真鍮で出来ているので、
すぐフニャフニャになってしまい、使い物になりません。
オーバーホールが終わり、
最後に距離計の上下調整をしようと思ったら、
上下調節をする場所がありません。
どうも、反射プリズムの取り付け位置自体を動かすようですが、
プリズムを止めてあるネジの頭が既に酷いことに。
ああもう!
いろいろ面倒なことがありましたが、
シャッター幕も綺麗になり、オーバーホールが終わりました。
この時代のレンジファンダーカメラは、
いかにM3に近づけようかと頑張った感じがしますが、
やはり無理が祟ったカメラが多かったようです。
タナックも、
この翌年にはブライトフレームを入れたVPを出しますが、
こう毎年モデルチェンジをしていたら投資が大変です。
結局、タナックもVPの後は出ずに終わってしまいました。
完成度の低いカメラを修理するのは大変ですが、
一生懸命ライカに近付こうとした軌跡を見るのは、
修理していても大変面白いものでした。
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