最近は難題カメラが多く来てしまい難儀していますが、
また手間の掛かるカメラをやることになりました。
「コンタフレックス」という名のカメラは、
戦後にレンズシャッター一眼レフの名として復活しましたが、
こちらは、ツアイスが戦前に作った35mmの二眼レフです。
35mm判で二眼レフ、しかもレンズ交換式で、
世界初の電気式露出計も搭載されました。
当時、世界一高価な35mmカメラでもありました。
このカメラの修理がなぜ大変かというと、
修理の際には、
周りに貼ってある革を全て剥がさなければなりません。
しかも貼ってある革は、革と革の繋ぎ目が分からないように、
繋ぐ部分の革を薄くそいで繋いでいます。
薄くそいである部分は弱いので、
慎重に剥がさないと切れてしまいます。
機械的な修理をする時間より、
革を剥いだり貼ったりするのに時間が掛かるのです。
時間を掛けて慎重に革を剥ぐと、
やっと分解することができます。
基本的にはコンタックスⅠと同じ構造ですが、
なんと、スローユニットとシャッターユニットは、
分解時に上下で別れ別れになってしまいます。
これが、上下を合体させるとギア同士が上手く噛み合うのです。
取り付け精度に自信が無いと、こういう構造には出来ません。
スローユニットは簡単に外せるし、
鎧戸シャッターもユニットとの噛み合わせが別になっているので、
リボン交換は、コンタックスⅠ型よりはやりやすいですね。
シャッターリボンは交換されていましたが、
ライカ等に使うリボンを流用したようで、これではダメです。
時々、コンタックスにも、
ライカ等に使うリボンを流用している個体を見かけますが、
どうも構造を理解できていないようです。
シャッターリボンは、先幕の金具に通すのですが、
金具を通す部分には、ある程度のフリクションが無いとダメなのです。
コンタックス系は、シャッターを巻き上げた時に、
既にシャッターのスリットが開いています。
シャッターを切った時に、
そのスリット幅のままシャッターが走るのですが、
先幕と後幕の間にフリクションが無いと、
シャッターが走っている時にスリット幅が変わってしまいます。
今回の個体も、1/1000秒が途中で閉まってしまっています。
フリクションが大き過ぎると巻上げが重くなるし、
フリクションがちょうど良いリボンを探すのが大変なのです。
オーバーホールが終わると、一番の難題の革貼りです。
上手く剥がしても少しは切れてしまうので、
その部分を補修しながら貼って行きます。
角の部分も、繋ぎ目が分からないように貼って行きます。
段差や隙間が出来てしまった部分は、パテで埋めて補修します。
裏蓋には、有名な?「コンタックスいぼ」があります。
フィルムの圧板を止めている金具が腐食して、
革が盛り上がってしまうのです。
せっかくなので、これも革を剥がして取り出します。
綺麗に革を貼る作だけで1日近く掛かってしまいます。
これはもうカメラ修理と言うよりは、
工芸品のレストアのような作業です。
ですからこのカメラをやる時には、
最低でも2日は空けとかなければいけません。
今回の個体も「カメラ市までで良いので」と言われていたのですが、
結局今まで暇が無く、切羽詰まったところでの作業となりました。
とりあえず無事直って良かったのですが、
何か問題が起これば、
せっかく苦労して貼った革を、また剥がさなければなりません。
出来ることなら、あまりやりたくないカメラです。
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